⑥トレテス

 オーガニック食材や無添加の食品を輸入する事業を展開する同社。始まりは1994(平成6)年、設立者の中川智子さんが定年を迎えた父親とインドネシアを旅行したことでした。


 旅の目的の一つが、父の友人で残留元日本兵の石井正治さんを訪ねること。現地で商才を発揮し事業に成功した石井さんは、「日本との懸け橋になるものを作りたい」という夢をかなえる食材として、ジャワ島東部のトレテス高原を中心に自生していたムカゴこんにゃく芋に着目。寒村の農民の自立手段にと栽培技術を指導する傍ら、 20年近くを費やして乾燥糸こんにゃくを開発し、地元の女性を雇用して製造工場の操業を開始したところでした。


 日本での販売を託された智子さんは宝塚市の自宅に事務所を構え、商品をインドネシア語で女性を意味する 「ぷるんぷあん」と名付けて事業に着手します。ところが、その4カ月後に阪神・ 淡路大震災が発生。一時中断し、被災者支援のボランティアに奔走しました。            


 その活動資金が尽きてきた頃、窮地を救ったのが「ぷるんぷあん」でした。「『売り上げを支援に充てて』と買ってくれた人たちから、『おいしかった」と注文が次々に入り、善意の輪とともに販路は全国に広がっていきました」と話すのは、智子さんの息子で現代表取締役の啓さんです。


 東日本大震災を機にUターンし経営を継いだ啓さんは、新たな挑戦に乗り出します。海外に向けても「ぷるんぷあん」の販売を始めたほか、扱う国や商品を徐々に増やしてきました。


 イラン産の無農薬栽培のナツメヤシの実を使ったデーツシロップ、植物性原料だけで作られたエストニアのオーガニックチョコレート。「どの商品にも物語があり、 売り上げによって海の向こうに助かる人たちがいる。単に物を動かすのではなく、作り手の背景や温かみも一緒に届けるのが私たちの役割です」。現地に何度も足を運び、厳しくチェックした上で納得のいく商品の開発に情熱を傾けています。