①弁天堂
甘い香りが立ち込める工房で、焼き上がったばかりのシュー皮の膨らみ具合に満足そうな表情を見せるのは、5代目で製造責任者を務める桑名寛和さんです。「冷凍した状態で納品するので、解凍してもサクサク感が出るよう、表面にクッキー生地をのせているんです」と、おいしさを引き出すひと工夫を語ります。
1879(明治2)年、淡路島の旧津名町で和菓子店を構え、後に洋菓子部門を併設。和洋を味わえるスイーツ店として地元の人に親しまれてきました。約30年前からは原料にこだわった無添加のお菓子作りを追求し、趣旨に賛同する企業に商品を提供する事業を開始。島内に数店舗あった店は全て畳み、現在は洋菓子の受注生産に絞って事業を展開しています。
使用するのは、国産の小麦粉や北海道産の乳製品、鹿児島県産の粗糖など厳選した原料のみ。イチゴや鳴門オレンジといった農産物は淡路島産の、可能な限り環境負荷に配慮して栽培されたものを仕入れます。「自信を持って安全だと胸を張れる食材以外使わないこと」。父親であり4代目代表の正徳さんから引き継いでいるこだわりです。
さらに、添加物や保存料など不要なものを一切入れないのも同社のポリ シー。シンプルな材料で、心を込め、丁寧に手作りしています。「例えばカスタードを作る場合、乳化剤を使わない分、かき混ぜる回数はかなり増えます。 でも、時間をかけて炊き上げたクリームはまったりとして絶妙なおいしさにな ります。そういうこだわりは食べる人に伝わると思いますし、よく「優しい 味わいですね』と言っていただきます」
コープ自然派でロングセラーのチーズケーキを筆頭に数ある商品の中でも寛和さんの自信作は、培った技術と厳選素材をオリジナリティーあふれる商品へと昇華させたシュークリーム。工房の片隅に店を開き、10年間修業した神戸の名店「エストローヤル」のように 行列をつくりたいと夢を描いています。